勇者調査官

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SELF LINER NOTES

制作のきっかけは文学フリマ

レインジャーズフィールドというゲームブック作品をKindleで出すようになって、ツイッターで反応をいただけるようになりました。ゲームブックを書いている作者の方々とも繋がれて、そこにもちろん実りはあったのですが、そうなると次の欲が出てくる。
『リアルな反応、リアルな繋がりも欲しい』
そんな時、これまたツイッターで『文学フリマ』なるイベントがあることを知りました。いわゆる同人誌イベントってやつですね。
そういうものには機会に恵まれず行ったことがなかったんですが、これはついに動機が出来たぞと。飛び込んでみるチャンスだろうと。
次の文学フリマがいつ開催が調べてみるとおよそ半年後。
短編なら一本行けそうだし、2巻まで出してるレインジャーズフィールドもその場で紹介すれば都合3冊。
これで参加してみようと申し込みをして、そこから新作短編として『勇者調査官』の企画を考えはじめたのですが……
ボリュームコントロールが全然出来なかった。
プロットがどんどん肥大化し、書き始めるとさらに分岐が増殖。アウトオブコントロール。
さらにコロナ禍突入で公私共にあらゆるスケジュールが変わってしまい……。
結局全然間に合わなかったんですが、当の文学フリマも中止となってしまい、『勇者調査官』は締切も行き場も失ってしまいました。
それでもとにかく書き始めたものは終わらせないと次に行けない性分なのと、グダグダやってるうちにすっかりレインジャーズフィールド続編の制作が延び延びになっており、読んでくださった方々をお待たせしてしまっているという切迫感に突き動かされ、なんとか完成に漕ぎつけることが出来ました。

勇者調査官はゲームブック、その中でも特に分岐小説の性格が強い作品

勇者調査官はゲームブック、その中でも特に分岐小説の性格が強い作品です。
これは作者が元々小説を書いてきたことに起因しています。どうしてもゲーム性よりもメッセージ性、物語性を重視してしまう傾向にあるというか、それがやりたいことでもあります。なので、それこそを自身の個性、持ち味、武器と都合よく解釈して、今後もこのスタイルでやっていこうと思っています。
「いや、だったら小説書けば?」という声がいずこからか聞こえてきそうですが、小説では表現できないifの世界や読み手の意志、選択というものを引き込みたいんですよね。
読者とのほんのちょっとのコミュニケーション、負担にならない控え目なインタラクティブ性、そういったものを求めてゲームブック(分岐小説)を書いています。

種族の性格は人間の一側面

種族の設定は企画当初から結構こねくり回していて、本編では書かなかった裏設定もいろいろあります。
例えばエレイラン族は獣や猛禽類の顔に翼を持った種族ですが、実は彼らは元々醜いキメラした。喰った相手の特長を取り込んでしまう性質を持っていて、虫や獣などなんでも食べて滅茶苦茶な容姿でした。それがある時、ニルデン族の知性と獣の力をバランス良く取り込んだ個体が現れ、彼を始祖として次第に食べるものをコントロールして容姿を保つ集団が誕生して現在に至ります。なので、エレイランは基本的に肉を食べません。
これは裏設定ですが、稀にニルデン族の姿で生まれてくるエレイランがいるのは、最初に生み出されたキメラがニルデン族の遺伝子から生み出された怪物だったからです。

話が逸れましたが、種族の性格の話です。
複数の種族を出すからにはそこに意味や関係性が欲しいと考えました。
そこで、各種族は人間の一側面のメタファーとしました。
ノドローク族は学校で言えばクラスのやんちゃ連中です。
肉体的な部分に自身を持ち、その点で劣るものを攻撃します。
タミット族はオタクと言われる人たちです。自分の好きなものや創作に集中力を発揮し、他のことを疎かにします。
エレイラン族はエリート層、何かと出来る連中ですが自分たちをセレブと言ってはばからず、出来ない者を下に見て自分たちで動かそうとします。
ドラギュニオン族はこれら三つのクラスタ分けとはちょっと違った視点になりますが、人間の暴力と金銭欲を表しています。機嫌次第で他者を攻撃し、あの世まで持って行けない富を求めます。
ニルデン族はそんな各種族の悪いところを全部持ち合わせた種族です。
語感で気付いた方もいるかもしれませんが、ニルデン=ニンゲンそのものってことですね。
ニルデン族は数が多く他の種族を差別しがちという設定にしていますが、この点もどうしようもないニンゲンの特長ですね。
裏設定として、全ての種族はニルデン族の遺伝子改変から生まれたことになっているので、ニルデン族が自分たちこそ正しい生物という意識で他の種族を差別するのも仕方がないことかもしれません。
ここまで悪いところばかり書いてきましたが、シンゼア族は唯一悪いところの無い種族です。古の知識を持ち、全種族のために薬を作っている献身的な少数一族。
でもこの献身的ってやつもやっぱり人間の一側面です。稀にわが身も顧みず無茶苦茶に善行をする人間っていますよね。苦しくても私財を投げ打っても何かに突き動かされるようにボランティアに従事する。少数ですがそれもまた人間。社会の希望です。
最後に忘れ去れた第七の種族ミスレンクリューメ。これだけは実は人間がモデルではなく、素粒子がモデルです。

リトライは容易な方がいい

勇者調査官はとにかく長い(文章量が多い)作品なので、読むだけで時間をとってしまいます。1パラグラフあたりの文章量も多いし、選択肢無しでパラグラフを移動することで指セーブも困難にしています。物語を読み込んで、選択して、選択した先からさらに何度も遷移させられて――辿り着いたのがバッドエンドだったら「どこまで戻ればええね……」って途方に暮れますよね。そうに違いない。
チャートを書きながら進めてくださる方はいいのですが、出先や移動中などメモを取りにくい環境で読まれる方はそこで心折れてしまうかもしれない。
それではあまりに申し訳ないし、枠者としても続きを読んで欲しいので、バッドエンドにはそれを回避できたかもしれないパラグラフを記載して、そこまで戻れるようにしました。

勇者調査官を読んでくださった皆様へ

ジョット・エイバルの旅にお付き合いいただきありがとうございました。
この作品は、『大切な人をどう愛するか』、『何を大切にして生きるか』といったテーマで書いたつもりです。作中の出来事やキャラクターたちの考え、エンディングに至るまで全ては作者個人の価値観によるで、決してこれが正しいなどと主張するものではありません。
ただ、「自分ならこうするな」とか「自分にとってはこれが正解だな」とか、ほんの少しでも自分の愛や、生きる上で大切にするものについて想いを馳せて頂けたなら幸いです。

2021.7.3 小野寺潤

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